待ってたホイ^_^ 表紙

待ってたホイ^_^

― はじめてメダカを迎えるための心得 ―

目次

第1章まだ名前も 決めていない 第2章朝の光が 水を呼んで 第3章小さな幸せは 迷わず来る 第4章ここが君の 居場所だよ 第5章もう始まってる この未来 第6章水草が揺れて ゆらゆら 第7章はじめての今 終章はじめてのメダカ はじめての今 付録音楽/歌詞 「待ってたホイ^_^」

第1章 まだ名前も決めていない

まだ名前も 決めていない

はじめてメダカを迎えるとき、 多くの人はまず名前を考える。 かわいい名前、 縁起のいい名前、 長く呼び続けられそうな名前。 けれど、 名前は急がなくていい。 いや、 急がない方がいい。 名前とは、 付けるものではなく、 にじみ出てくるものだからだ。 メダカは、 こちらの期待を知らない。 どんな性格であってほしいとか、 どんな役割を担ってほしいとか、 そんなことは一切引き受けない。 ただ泳ぎ、 ただ止まり、 ただ向きを変える。 その何気ない繰り返しの中で、 • よく前に出てくる • いつも同じ水草の影にいる • なぜか目が合った気がする そんな“偏り”が、 少しずつ見えてくる。 名前は、 そのあとでいい。 最初に大切なのは、 呼ぶことではなく、 見ることだ。 呼ばれない時間を、 ちゃんと持つこと。 それは、 相手を物語に押し込めないための、 ささやかな礼儀でもある。 名前を決めていない時間は、 不完全ではない。 むしろその時間こそが、 関係のいちばん柔らかい部分だ。 まだ決めていない。 まだ縛っていない。 まだ期待していない。 その余白があるから、 この先が長く続く。 もし誰かに聞かれたら、 こう答えればいい。 「まだ名前は決めてないんです」 その言葉の中には、 もう十分な“迎える気持ち”が 含まれている。 メダカは、 名前がなくても泳ぐ。 そして、 名前を持たない時間を ちゃんと覚えてくれる。 小さなメモ(章の終わりに) 名前を決めないことは、 距離を取ることではない。 急がずに、近づくための方法だ。

第2章 朝の光が水を呼ぶ

朝の光が 水を呼んで

水槽を置く場所を決めるとき、 サイズや値段よりも先に、 考えてほしいことがある。 それは、 朝の光がどう入るかだ。 メダカは、 照明よりも先に、 一日の始まりを感じている。 カーテン越しのやわらかい光。 雲の動きで少し変わる明るさ。 それらが水面に落ちて、 水がゆっくり目を覚ます。 その時間を、 一緒に過ごせる場所がいい。 水槽は、 「置くもの」ではなく、 置かれるものだ。 部屋の中で、 自然にそこに収まる場所。 通り道でもなく、 作業の邪魔にもならず、 でも、 視界の端にちゃんと入る高さ。 覗き込まなくても見える位置。 見下ろさなくていい位置。 それは、 メダカを観賞物にしないための、 小さな配慮でもある。 人は、 つい世話をしたくなる。 近づきすぎて、 手を入れすぎて、 良かれと思って、 水を揺らしすぎる。 だからこそ、 距離が保てる高さが大切だ。 座ったまま、 同じ目線で見る。 それだけで、 関係はずいぶん穏やかになる。 朝の光が水を呼び、 水が静かに動き出す。 その様子を、 こちらも何もせずに眺める。 それができる場所なら、 もう十分だ。 立派な設備も、 最新の器具も、 あとからでいい。 水槽の場所が決まると、 不思議なことが起きる。 まだ水が入っていなくても、 そこに「時間」が流れ始める。 湯を沸かす音。 カップを置く音。 部屋に流れる音楽。 それらが、 水のない水槽の前を通り過ぎていく。 メダカはまだいないのに、 暮らしの一部になっている。 それでいい。 場所が決まるということは、 迎える準備が整った、 ということではない。 ただ、 一緒に過ごす未来を、 そっと許した というだけだ。 小さなメモ(章の終わりに) 水槽に必要なのは、 光と水だけではない。 人が落ち着いて立ち止まれる場所 それも、立派な環境だ。

第3章 急がなくていい ちゃんと来る

小さな幸せは 迷わず来る

メダカを迎えようと思ったとき、 一番むずかしいのは、 実は「準備」ではない。 待つことだ。 今は、 欲しいと思ったものが、 すぐ手に入る。 画面を一度なぞるだけで、 水槽も, エサも, 道具も, 翌日には届く。 便利だ。 ありがたい。 でも、 その速さに心まで合わせなくていい。 生き物を迎える順番には, 目に見えない流れがある。 人の気持ちが先。 場所がその次。 水が落ち着き, 最後に, 命が来る。 この順番を飛ばしても, メダカは泳いでくれる。 けれど, この順番を守ると, 人の方が落ち着く。 それが, 長く続くかどうかの分かれ目になる。 「まだ早いかな」 「もう少し待った方がいいかな」 そう思えるうちは, まだ大丈夫だ。 その迷いは, 不安ではない。 丁寧さの兆しだ。 人は, 早く完成させたくなる。 水槽を立ち上げ, 水を張り, メダカを入れ, 「始めた」という形を作りたくなる。 でも, 完成を急がなくていい。 この暮らしに, 完成はない。 急がない時間は, 何もしていないようで, 実は多くのことを整えている。 • 毎朝, 水槽を見る癖 • 部屋の光の変わり方 • 触れないで済む距離感 それらが, 自然に身につくまで待つ。 メダカは, 整った水より, 整った人の前に来る。 待っている間に, 気持ちが変わることもある。 「やっぱり今じゃないな」 そう思ったら, それも正解だ。 迎えない選択も, ちゃんとした選択だ。 急がなくていい。 ちゃんと来る。 この言葉は, メダカに向けたもののようで, 実は自分に向けた言葉だ。 迎えたその日が, 特別な日でなくてもいい。 何も起きていない, いつもの朝に, ふっと来る。 そのくらいが, ちょうどいい。 小さなメモ(章の終わりに) 待つことは, 我慢ではない。 迎える準備が, 静かに進んでいる時間だ。

第4章 おーよしよし、待ってたホイ^_^

ここが君の 居場所だよ

メダカを水槽に迎え入れたとき, 多くの人は一瞬, 戸惑う。 触れない。 抱けない。 撫でられない。 それでも, 何か声をかけたくなる。 その気持ちは, とても自然だ。 生き物に声をかけることは, 情報を伝えるためではない。 命令でも, しつけでも, 意味の説明でもない。 声をかける行為そのものが, 「ここにいていい」と伝える仕草なのだ。 だから, 難しい言葉はいらない。 長い言葉も, 立派な言葉も, 正しい言葉も必要ない。 むしろ, 意味がはっきりしすぎる言葉は, 少し重い。 「おーよしよし」 この言葉は, 何かを求めていない。 評価もしない。 期待も乗せない。 ただ, そこにいることを そのまま受け取っている。 そして, そこにそっと添える。 「待ってたホイ^_^」 この一言が入ることで, 時間が共有される。 早かったとも, 遅かったとも言わない。 ただ, 来る前から場所があった という事実だけが残る。 声の大きさは, 自分に聞こえるくらいでいい。 水面を揺らさない。 空気を押さない。 独り言のように, 照れくさそうに。 それが, 触れない生き物との ちょうどいい距離だ。 この言葉は, 何度も繰り返すものではない。 毎日言うと, 少し野暮になる。 これは, 最初の挨拶であり, 開会の合図だからだ. 言葉をかけたあと, 何も起きなくてもいい. すぐに泳ぎ出さなくてもいい. 水草の影に隠れてしまってもいい. こちらが, それを待てるかどうか. その姿勢こそが, いちばん大切な返事になる. 「おーよしよし, 待ってたホイ^_^」 この言葉を, 静かに言えたなら, もう大丈夫だ. それ以上, 何も足さなくていい. 小さなメモ(章の終わりに) 声は, 意味よりも 温度が伝わる. 触れられないからこそ, 言葉は やさしく置いていく.

第5章 独りでいいさ はじめはね

もう始まってる この未来

はじめてメダカを迎えるとき, 数について悩む人は多い。 一尾がいいのか. 二尾がいいのか. ペアが自然なのか. 家族のように増やすべきなのか. どれも, 間違いではない. けれど, 最初は独りでいい. 独りだと, 比べる必要がない. 動きの違いも, 性格の差も, 競争も起きない. ただ, その一尾だけを見ることができる. 複数いると, どうしても人は 「違い」を探してしまう. 元気な個体. 弱そうな個体. よく動く個体. 目立たない個体. それは悪いことではない. でも, はじめのうちは少し忙しい. 独りでいる時間は, 静かだ. 水槽の中に, 役割も序列もない. 泳ぐ. 止まる. 向きを変える. その単純な営みが, そのまま暮らしになる. 独りでいるメダカは, 人の視線を一身に受ける. それは少し責任があるが, 同時に, 誠実な関係でもある. ごまかしが効かない. 放っておけない. でも, 干渉しすぎると壊れる. ちょうどいい距離を, こちらが覚えるしかない. やがて, 「増やしたいな」と 思う日が来るかもしれない. そのときは, それでいい. 独りで過ごした時間があると, 増やすことも, 増やさないことも, 落ち着いて選べる. 独りで始めることは, 孤独ではない. むしろ, 関係を一対一で結ぶという, いちばん贅沢な始まりだ. 小さなメモ(章の終わりに) 数を増やす前に, 時間を増やす. それが, 長く続く人のやり方だ.

第6章 何もしない日 それもいい

水草が揺れて ゆらゆら

メダカを迎えると, 人は急に“まじめ”になる. 水は大丈夫か. エサは足りているか. 汚れていないか. 何かしてあげた方がいいのではないか. その気持ちは, やさしさから来ている. でも, やさしさはときどき, 動きすぎる. メダカの世話で, いちばんむずかしいのは, 何をするかではなく, 何をしないかを選ぶことだ. 今日は水換えをしない. 今日は手を入れない. 今日はただ見るだけ. それは, 怠けているわけでも, 放置しているわけでもない. 選んで, しないという行為だ. 何もしない日は, 水槽の音がよく聞こえる. フィルターの小さな音. 水面のわずかな揺れ. 部屋の中の生活音が, 水を通して丸くなる. その中で, メダカはいつも通り泳いでいる. 変わらないことが, どれほど安心か. 世話をしすぎると, 人は「結果」を求め始める. 元気かどうか. 成長しているか. 増えているか. でも, 何もしない日は, 結果が見えない. ただ, 時間だけが流れる. それでいい. むしろ, 何もしない日が続くほど, 関係は安定する. 水も落ち着き, 人の手も落ち着く. メダカは, その安定を ちゃんと感じ取っている. もし, 「何もしていない気がして不安」 になったら, こう考えてみてほしい. 今日は, 邪魔をしなかった. それは, 立派な世話だ. 小さなメモ(章の終わりに) 何もしない日は, 空白ではない. 信頼が育っている時間だ.

第7章 増えなくてもいい 君が泳げば

はじめての今

メダカを飼い始めると, いつのまにか 「増える」という言葉が 視界に入ってくる. 増やす. 繁殖させる. 数を保つ. 系統を守る. それらは, すべて立派な楽しみ方だ. でも, それだけが正解ではない. 増えることは, 喜びにもなる. けれど同時に, 管理と判断を連れてくる. 水槽が増え, 時間が割かれ, 「どうするか」を 考える場面が増えていく. それを楽しめる人もいる. でも, 疲れてしまう人もいる. この本が伝えたいのは, 別の選択肢だ. 増えなくてもいい. 成果にならなくてもいい. ただ, 一尾が, 今日も泳いでいる. それだけで, 十分な豊かさがある. 生き物を 「結果」で見ないということ. 増えたかどうか. 長生きしたかどうか. うまく育てたかどうか. そうした評価を, いったん手放す. すると, 見えてくるものが変わる. 泳ぎの癖. 止まる場所. こちらが近づいたときの反応. その一つひとつが, 数字では測れない 関係の手触りになる. 増やさない選択は, 消極的ではない. それは, 今ある関係を 大切にするという 積極的な態度だ. 君が泳げば, それでいい. 今日も, 水草の影から出てきて, また戻っていく. その繰り返しを, こちらが穏やかに見ていられるなら, もう何も足さなくていい. 小さなメモ(章の終わりに) 増えなくても, 関係は深まる. 続いていること自体が, もう答えだ.

終章 何も起きてない普通の朝

はじめてのメダカ
はじめての今

朝, 目を覚まして, 水槽を見る. 特別なことは起きていない. 水は静かで, メダカはいつも通り泳いでいる. 昨日と同じ. 一昨日とも, 大きくは変わらない. それでも, この朝は悪くない. むしろ, とてもいい朝だ. 迎えた日よりも, 数日経ったあと. 何も説明しなくなったころ. この関係が, 暮らしの中に すっと溶け込んでいる. もし, いつか終わりが来ても, その時間は消えない. メダカがいなくなっても, 迎えたときの姿勢は, こちらに残る. 急がず, 比べず, 騒がず. 待って, 見て, 受け入れる. そのすべてを, ひとことで言うなら, これでいい. おーよしよし, 待ってたホイ^_^ 最後の一行 何も起きていない朝を, ちゃんと好きでいられるなら, それはもう, 幸せな暮らしの始まりだ.

ジュークボックス

待ってたホイ^_^ / カサツキサトシ&チューリップハッツ

歌詞

「待ってたホイ^_^」/作詞:アバウト佐々木 歌唱:カサツキサトシ&チューリップハッツ

まだ名前も 決めていない
どんな顔かも 知らないけれど
朝の光が 水を呼んで
そこに君が 来る気がした

急がなくていい ちゃんと来る
小さな幸せは 迷わず来る

おーよしよし 待ってたホイ^_^
ここが君の 居場所だよ

水草が揺れて ゆらゆら
もう始まってる この未来

何もしない日 それもいい
それが今日の 贅沢さ

おーよしよし 待ってたホイ^_^
ここが君の 居場所だよ

はじめてのメダカ
はじめての今